「お米の伝来と国内での伝播その二」
先週は、お米がどのように日本に伝わったかについてのお話をしました。
先週の話をまとめると、二つ。どちらも、相次ぐ、考古学的発見によるものです。
第一は、お米の伝来時期の変更です。お米の伝来時期がどんどん縄文期にまでさかのぼり、縄文弥生という時代区分も変わってしまったというお話でした。
第二に、畑作と水田に関わることです。古くから伝わった畑作向きのお米、熱帯ジャポニカが、あとから伝わった、水田で作るお米、
温帯ジャポニカに、短期間でとって変わられたと思われていましたが、実際は、かなり後まで、畑作稲も作られていた、という話でした。実は、今でも、ごくごく少量ですが、畑の米作りが行われています。陸の稲、陸稲、通称、おかぼと言います。国の統計にも、のっているんです。
さて、今回のお話は二つ。
一つ目は、お米の伝来のルートとそれに伴う、生活文化的要素について。
二つ目は、水田での米作りが日本中に拡がる際の品種改良についてです。
まず、最初の伝来ルートです。お米の伝来ルートは三つ考えられますが、それぞれの文化的背景・技術が日本に入ってきました。熱帯ジャポニカは、南方から奄美諸島を経るというコース。温帯ジャポニカは、中国から直接もしくは朝鮮半島を経てという三つのルートです。
縄文人は森を拓きながら、雑穀や栗などを栽培していきましたが、ここに熱帯ジャポニカが入りこんできます。南からの伝来ルートから同時に伝わったと思われるものには、踏耕や夏正月があります。とうこう、踏んでたがやすと書きますが、これは、田植えに先立って牛を水田に入れて、追いたて、水田の土を耕す作業です。夏正月は、南の島に伝わる八月の行事です。夏正月はもっぱら沖縄以南の風物ですが、踏耕の跡は日本各地の遺跡に見られます。
温帯ジャポニカのルートに関してはどうでしょう。このルートに付随する文化要素は、高床式穀物倉庫、鵜飼いの文化、青銅器文化、剣と鏡などです。このような要素が、日本に伝わりながらアレンジされ、日本的稲作文化が形成されていきました。歴史の授業時間に習った様々な要素が、米作りと一緒に伝わって広まっていったことがわかります。
次に、お米の品種改良についてです。熱帯ジャポニカ、温帯ジャポニカ、別の言葉で言えば、畑作と水田のお米ですが、先祖は、それぞれの土地や条件に合わせて、両方を作り分けていた話をしました。さらに、栽培においても弥生人が工夫をしていた痕跡があります。
こんしょく(混植)、種を混ぜて栽培をしていたと思われることです。遺跡跡から出土する米粒の大きさは、非常にばらついているそうです。現在は、一つの田んぼでは一つの品種が一般的ですが、実は、単一品種の栽培は危険な側面を持っています。病気・害虫の被害が集中しやすいからです。一方、多様な品種、つまり、種の多様性は、大量でなくても安定した収穫を意味します。
混植の意味はもう一つあります。それは、突然変異の確率が劇的に高まることです。
これによって、日本中に水田稲作が広まっていったと考えられます。どういうことでしょうか?
まず、一般的な話をします。作物には、そうせい(早生)・ちゅうせい(中生)・ばんせい(晩生)というのがあります。早く成長するものを、わせ(早生)、遅いものを、おくて(晩生)、その中間のものをなかて(中生)と呼びます。
熱帯ジャポニカも温帯ジャポニカも日本より暑い地域の気候に適応した「晩成(遅咲き)」です。しかし、寒い青森にまで稲作が伝わるには「早稲品種」が必要です。早く稔る種類がないと、稲作の北上はありえなかったのです。
日本に水田稲作がもたらされて、九州から青森に伝わるまで数百年、単一の品種がこのような早さで、緯度差20度の広範囲の地域に広まったというのは考えにくいことらしいのです。稲の開花時期は遺伝子により決定されていて、環境に合わせて自ら「早生」や「晩生」を調節できません。そこで、当初「晩生」だった稲が突然変異によって次第に寒冷地に向くよう「早生」化していった、と考えられるわけです。ところが、突然変異の発生する確率は十万分の1程度と考えられており、通常の自然な突然変異に頼っていてはとても猛スピードで北進できません。
では、何があったのでしょうか?
実は、温帯ジャポニカと熱帯ジャポニカを交配すると、一定の率で「早生」のイネが出現する事が確認されています。つまり、北方と南方から別々に日本列島に渡来した2つの稲は、混在し交配し、北日本でも栽培可能な「早生」品種を誕生させ、そうした品種が日本列島を北へ北へと猛進していったと考えられるのです。
どこまで弥生人が意識的に混植をしていたのかはわかりません。偶然の産物かもしれません。でも、現代の私たちが想像している以上に、彼らには色々なことがわかっていたのではないかと想像したくなります。
今日はここまです。
皆さん、お米について知りたい聞きたいことがあれば、何でも結構です。是非、ラジオフチューズまでメールをお寄せください。