お米の新しい品種や品種改良
今日は、お米の新品種、品種改良についてのお話です。
毎年のように新しい品種が登場します。正直言いますと、エッジが効いて、つまり、他の品種とは際立って違っていて、これは面白い、是非お客さんに紹介したいと仕入れしたくなるような品種は少ないのです。過去二年、当店が新たに仕入れたのは、二品種だけ。雪若丸とつきあかり。どちらも、他にない何かを持っていた品種。あとは、「おお、これも美味しいじゃん」でも、この程度なら、もう、うちにあるし、わざわざ仕入れるまでもない、となってしまうんです。
最近の新品種の傾向は大きく分けると二つ。
まず、大成功した、山形の「つや姫」と北海道の「ゆめぴりか」の後を追うもの。コシヒカリ、特に新潟コシヒカリを超えるお米というコンセプトです。つやがあってピカピカで、粘って甘くておいしい。
共通するポイントは二つです。食味を落とすたんぱく質の量を上げてしまう肥料、具体的には窒素の使用量を制限することと、土壌に合った場所での栽培、つまり、売れるからと言って、美味しく作ることが難しい田んぼでは作らせない。
また別の機会に詳しくお話しますが、今お話ししたポイントは意外と難しい課題なんです。普通は、デビュー当初は、大変な評判なのに、県全体で何も制限をつけずに作り過ぎて、結果、評判を落とすブランドが多かったからです。
代表例が秋田の「あきたこまち」と山形の「はえぬき」。
もう一つの新しい品種の傾向は、粒感があって、粘りがあまりなく、寿司に向くとか、洋食や中華向けとかいうタイプです。このタイプには、さらに、多収穫の品種もあります。
ただ、どちらのタイプでも、ここ数年の二十を超える品種を試食した限り、残念!で終わってしまうことがほとんど。テレビなどでは、相変わらず、芸能人に美味しいと言わせるPRが目立ちますが、見ているこちらは、「さすが、役者だな」と感じるばかりです。
少し詳しく話します。
前者、つまり、コシヒカリと競り合うような品種の場合は、同じような傾向のお米が多くて、結局、特徴が出にくいです。新しい品種が出たから、今まで以上にお米が売れると期待することは難しい状況です。毎年、消費は減っているのですから。今まで販売してきた、本当に美味しいお米をわざわざ減らしてまで、新しいからと言って仕入れる必然性を感じないんです。特に、当店の場合は、産地や生産者を限定していますので、品質の安定度は比較的に高いものがあります。ところが、新しい品種の場合、最初の数年は、県単位の仕入れとなり、生産者別の品質のぶれも怖いところです。
後者、つまり、粒感重視の品種の問題は、
向いている料理の幅です。いくら、カレーに向いているとか、どんぶりに合っているとか言っても、そればかり家庭で食べるわけではありません。普段のお茶碗に盛り付けたご飯でも、ある程度は美味しくないと困ります。
業務用のようにそればかり使うのであればいいのですが、家庭用には、お薦めしづらいです。一回の炊飯量の小袋販売がいいのでしょうが、結局、割高になってしまいます。
二つのタイプの新品種について別々に話してきましたが、共通した問題があります。
生産者の高齢化と高い兼業比率です。作るのが難しく、職人芸的な努力能力を必要とされる品種では困るんですね、現場では。細かいことは、はぶきますが、美味しい品種でたくさん取ることは難しいんです。でも、たくさん取りたいですよね。なにしろ、農協に出荷する単価は他の人と基本変わらないのですから。
すると、たくさん取るために、窒素という肥料をたくさんふります。たくさん取れますが、同時に、食味が下がります。これは、ほとんど必然です。
コシヒカリなど以前の美味しい品種は、窒素をたくさん振ると、稲穂の背が伸びすぎて台風や強風で倒れてしまいました。これが、ある程度、窒素を自主的に制限する要因になっていましたが、最近の品種は、あまり背が伸びないように開発されています。倒れる心配がないから、窒素を振ってしまえるんです。
自分が作った美味しいお米を自分で売り切る自信がある生産者でないと、肥料を少なめにして収量が下がってもよい、食味を優先するということが、なかなかできないんですね。
もちろん、各県も、窒素を振り過ぎないようにさせる工夫はしています。窒素を振り過ぎたかどうかは、お米のタンパク質を計ることで概ねわかります。そのタンパク質を計測して、基準以上のタンパク質があったら、その品種では流通させないなどのしばりです。
でも、お米の美味しさは、タンパク質だけで決まるわけではありません。他の肥料も関係しますし、種籾を発芽させ、苗を作り、田んぼをならし、田植えから刈り取りまで稲が必要とすることを見極め、日々対応していく総合力も大事なポイントです。窒素とタンパク質だけでは判断できなんですね。
県単位でしか購入できないとなると、どういう生産者がどのように作ったのか、全くわかりません。生産者別に仕入れることができないことが、当店として新しい品種に魅力を感じにくい原因の一つです。
ただ、デビューから数年すると色々な制限がはずれて、自分が信用する生産者から直接仕入れることができるようになるケースがあります。新潟の「新之助」、青森の「青天の霹靂」などが、そのパターンです。
さて、今回はこれくらいで。本当は、今回、品種改良の方法と遺伝子組み換えとの違いまで予定していましたが、とても六分間に、全部は収まりませんでした。
ちょっとだけ、お店の情報。沖縄県石垣島から新米ひとめぼれが届いております。
日本で二期作ができる数少ないところ、石垣島からです。大粒で、粘りも甘みもほどほどの、好みや料理を問わないお米です。昨年仕入れてみて非常に良かったので、今年も仕入れました。今年もいい出来です。当店、量り売りができますので、是非、一度お試しください。超がつく限定品です。仕入れは、一回限りなので。
皆さん、お米について聞きたいことがあれば、何でも結構です。是非、ラジオフチューズまでメールをお寄せください。