過去四回、日本の歴史とお米の関わりについて話してきました。今日は、歴史から離れて、玄米食についてお話します。
最近、玄米でのお買い上げが増えています。十年前にはとても考えられないことです。
当店では、全体で30品種くらいのお米を扱っていますが、現在、玄米食向けには、無農薬栽培のお米を中心に十種類以上の玄米を店頭に並べています。以前は、玄米で置いていても、白米にしたり、分搗きにしたり、ということをまず想定していました。
玄米食には二つのハードルがありました。
一番目は、炊飯の難しさ。
二番目は、玄米食にふさわしい玄米の提供の難しさ。
まず、炊飯について。昔は、玄米食をするには、圧力釜を使わなければ炊飯も難しく、玄米食のハードルは非常に高いものでした。
それが、炊飯器の玄米モードで一変しました。炊飯器にお任せで、水に漬ける時間も必要なく、炊飯時間は長いですが、十分美味しく食べられるようになりました。
二番目の玄米食にふさわしいお米についてです。
ここでもポイントは二つあります。
一つは、農薬の問題です。農薬は、ヌカと胚芽に残留します。玄米は栄養があるから健康に良い、と言われますが、一方で残留農薬をすべて摂取することになります。
それが、現在は、特別栽培と有機栽培という二つの基準により、無農薬や減農薬の玄米があり、残留農薬の心配がかなり少なくなりました。
私の店でも、30年かかって、美味しいお米を作る意欲や能力だけでなく、自然環境にも意識のある各地の生産者とつながりを持ち、出来るだけ農薬を使用しない玄米を仕入れることができるようになりました。
次の問題は、異物や汚い粒の混入です。玄米のままでは、石や異物が入っていることもあり、安心して販売できる状況ではありませんでした。
さらに、カメムシや他の虫、また、色々な栽培上の問題で、黒い斑点のついた粒や、変色した粒もあります。食べたからといって、健康に害があるわけではありませんが、やはり、食べるときに見た目も悪いし、違和感があります。
お米の生産者は、脱穀・乾燥・籾摺り・調整をした玄米を出荷しています。調整とは、グレーダーという機械で、未成熟の粒をふるいで落とすことです。ただし、石や異物は、どうしても混入してしまいます。
一般的に、米屋の精米は、精米ラインといって、色々な機能を持つ複数の機械をすべてつなげて精米しています、玄米をラインに投入したら、最後に白米になって出てくるもので、その過程で、石や異物を排除する工程もあります。しかし、石や異物を排除した玄米を取り出すことはできません。元々白米にするための連続したラインですから。
それを変えたのが、玄米用の色彩選別機と小型でも高性能の店頭精米機です。
以前は、異物を排除する色彩選別機は、白米用だけでした。それが、玄米段階で、異物を選別できるようになりました。
まず、石抜き機で、石を抜き、次に、玄米色彩選別機で異物を排除します。ここまで準備してあれば、そして、精米ラインから独立した店頭精米機があれば、一気に白米にまで仕上げなくても、玄米でも精米でも提供できる状態になりました。
こうして、農薬という点で安心してお薦めできる玄米と、しっかり調製できる設備という二つのポイントで、玄米食用の玄米が提供できるようになりました。
ちょっと機械の説明ばかりで、わかりにくいかもしれませんね。お店に寄っていただければ、具体的な機械も見れますので、もう少しわかりやすくご説明できるかと思います。
さて、どのような玄米をどのような設備で提供するかという問題から離れて、玄米食自体のお話をします。
まず、玄米の栄養です・お米の栄養の多くは、ヌカと胚芽に含まれています。白米は、それを取ってしまいますので、残っている栄養素は、でんぷんとタンパク質がほとんで、微量の栄養素と食物繊維は減ってしまいます。
とにかく、玄米が栄養豊富なのは間違いありません。あえて少ないものを言えば、カルシウムは少なく、ビタミンCはありません。
デンプンは体内で糖質・ブドウ糖になり、あらゆる活動のエネルギー源になります。白米も同量のデンプンがありますが、決定的に違うのがビタミンB1の量です。玄米は、白米の八倍あります。
ビタミンB1は、ブドウ糖がエネルギーになるために不可欠です。これが、少ないために起こる病気が脚気です。江戸時代、脚気は、江戸患いと呼ばれました。参勤交代で江戸に来た地方の侍が、きれいに精米された白米ばかり食べていると脚気になり、地元に帰って、分搗きの米を食べると治ってしまったからです。日露戦争などの戦死も、実は、その多くが脚気による戦病死でした。当時、陸軍軍医の森鴎外が、脚気の原因がビタミンB1不足だとわからず、兵士が銀シャリを喜ぶからと、白米ばかり食べていたからです。
江戸幕府最後の将軍、徳川慶喜は、江戸城大奥で豚一と嫌がられていました。豚肉を好んで食べたからです。でも、ビタミンB1豊富な豚肉が慶喜の健康を支えました。それくらい、ビタミンB1は、大切なもので、それが、玄米にはたっぷり含まれているのです。
今日はここまです。
次回は、十一月十二日火曜日です。玄米食の続きです。
皆さん、お米について知りたい聞きたいことがあれば、何でも結構です。是非、ラジオフチューズまでメールをお寄せください。