先回は、1993年平成5年のお米の大凶作の時のお話をしました。当店の転機の第一弾です。
そこで、生産者と直接知り合え、安定して良いお米を仕入れることができるようになりました。
同時期、店頭での精米を始めました。以前は、玄米を投入して一気に白米に仕上げる連続工程の精米設備しかなく、一度に大量に精米する経験しかありませんでした。
店頭精米でそれまでにない二つの経験をしました。
一つは、同じ生産者の同じ品種でも、袋によってロットによって、微妙に違うことに気づきました。以前は、660kgまとめて精米していたので、一袋ごとに細かくお米を見ることはありませんでした。
もう一つは、白米・分搗きという細かい注文を受けられるようになったことです。これにより、お米によって、年によって、さらには日によって、気温によって精米の条件が変わることをいやおうなく学ぶことになりました。
精米職人、そんな意識を感じるようになりました。白装束の刀鍛冶のような気分です。精米中は、精米に集中していたいので、もしかしたら、機嫌が悪いように見えるかもしれませんが、お許しください。
さて、そんな状況が続く中、二度目のさらに大きな転機が訪れました。
2002年です。日韓ワールドカップの年。何があったか?実は、この頃、無洗米がブームになり、すぐにでも、全てのお米が無洗米になってしまような勢いでした。
牽引したのは、ある精米機メーカーと、東西の大きな生協でした。
色々な仕掛けで、無洗米のメリットをマスコミに流して、一大ムーブメントのようでした。では、当店に何が起こったのでしょう?
無洗米のPR、特に、海や川の水質環境に貢献する、そういう主張がおかしいと思い、調査を開始しました。なぜ、おかしいとわかったのでしょうか?
実は、府中の青年会議所の現役時代、多摩川の環境改善活動にかかわり、水質の問題を学んでいました。さらに、富山和子先生という環境問題の専門家との出会いから、お米と日本の歴史・自然環境との関わりも突っ込んで知ることとなっていました。こういう知識をベースに、無洗米の環境PRへの反論をまとめました。
それを、業界にどんどん紹介していきました。日本中の生産者、米屋、業界の専門誌、民間の農業団体。
すると、同感同意してもらえる人たちと、どんどんつながっていきました。
この人たちが、今、取り扱っているお米の基盤となりました。
生産者が別の生産者を紹介してくれて、米屋が、また、生産者を紹介してくれる。
意識の高い能力のある生産者が紹介してくれる生産者は、また、同じように素晴らしい生産者ばかりでした。
米屋が他の米屋に紹介できるのも、彼自身のつきあいでその素晴らしさをわかっている生産者です。
こうして、あっという間に、日本中の生産者との結びつきができました。それも、無農薬や減農薬で美味しいお米を作ることのできる生産者ばかりです。
さらに、安定的に作れる能力もある生産者です。
実例としては、平成5年1993年の大凶作の年があります。宮城県は特に被害がひどかった県の一つでした。しかし、2002年知り合えた生産者たちは、その大凶作の年でも、例年並みに収穫していたのです。
宮城の凶作の原因は、寒い風、ヤマセです。これが、稲の成長を妨げ、大凶作となりました。当店が知り合えた生産者たちは、このヤマセに合わせて、田んぼの水を増やして稲を温めてあげる、そういう工夫で乗り切りました。簡単なことに思えますが、そうではありません。遠くの空を見てヤマセを予感する能力、田んぼに水を引けるように農業用水を上流までさかのぼり水口を開け閉めする行動力、専業農家で、毎日、天気を見ながら、稲にとって必要なことをしてあげられる、そういう生産者だから、冷害を避けられたのでした。
このようにして、2002年、たくさんの生産者とのつきあいが始まり、取り扱いのお米が劇的に増えました。
数が増えただけではなくて、品種の幅が広がりました。
- 今はわずかしか作られていない古い品種。
- 全国でも栽培している生産者が限られる超がつく希少な品種。
- その県では普通に販売されているが、他県にはほとんど出回らない品種。
- 摂取するタンパク質を制限できる特殊な品種、
などです。今の当店のスタンス、セレクトショップとして自信を持ってお薦めできる品種が揃いました。
それもこれも、無洗米の環境PRをおかしいと思う生産者と米屋と知り合えたことから始まりました。ある意味、無洗米のおかげといっても過言ではありません。
また、当店のHPも同様です。みなさんから、無洗米についての反論を常時読めるHPを作って欲しいと言われ、作りました。営業目的ではなかったんです。でも、おかげでそこから今のHPにつながりました。
次回は、二月十八日火曜日です。
皆さん、お米について知りたい聞きたいことがあれば、何でも結構です。是非、ラジオフチューズまでメールをお寄せください。