今日は、特別栽培米についてお話します。
二回のシリーズになる予定です。
今日は、特別栽培農産物の理念と、それが私たちにもたらす意義です。
次回は、特別栽培農産物の具体的な内容とその表記についてです。
では、まず、農林水産省が定める特別栽培農産物に係る表示ガイドラインから始めます。
以下のように記載されています
「このガイドラインに基づく表示を行う農産物は、農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学合成された農薬及び肥料の使用を低減することを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培方法を採用して生産することを原則とする。」
ちょっと堅苦しい表現が多い、大仰な説明ですが、先回お話した有機JASにも通じる話です。
先回の有機栽培についての説明でも同様のことを言いましたが、根本は、「農業の自然循環機能の維持増進を図る」ことです。
これまでの農業では、農薬と化学肥料による生産量の増大が、なによりの目的でした。できるだけ多く安く作り、生産者の収入を増大しながら、同時に消費者の経済的利便的なメリットを最大化することが、すべてに優先しました。
これが、第二次大戦後、世界中で進展しました。
たくさんの成功事例がありました。特に有名だったのが緑の革命と言われる穀物の増産実績です。
化学肥料と農薬、そして灌漑による地下水の大量利用、以前より増収できる種子の開発と大規模農業。これが、大成功しました。メリットもたくさんありましたが、徐々にデメリットも目立つようになりました。
収量の頭打ち、土壌の劣化、周囲の自然環境の悪化や生物多様性の低下など。
具体的には、このようなことです。
農薬を多用すると、最初は害虫や雑草を抑えられますが、害虫を駆除してくれるいい虫、益虫まで殺してしまいます。むしろ、益虫の方が最初に被害を受けることがあります。雑草も農薬に対する抵抗性を持ち、農薬が効かなくなります。病気も同じです。薬が効かなくなります。いたちごっこです。
化学肥料の多用で、土壌の有機物が減り、土が硬くなると言われています。
化学肥料ばかりで有機肥料が少ないと、土壌は硬く締まり空気も入らず、根が十分に張ることができず貧弱になります。
すると、根は土の中の微量なミネラルを吸収することができずに、また、化学肥料で補うという悪循環になります。
また、化学肥料は水に溶けやすく、投入した半分ほどは地下水や河川にながれて、環境汚染にもつながります。
さらに、化学肥料を多用してしまうと作物に窒素分が多くなります。この窒素分が多い状態の農産物を虫や病気は好みます。これを農薬で駆除対応しようとします。
悪循環の連鎖ですね。
全部が全部悪いことばかりではないのですが、農薬と化学肥料を使えば使うほど、なにもかもが良くなるという単純な考えは、そろそろ見直さないといけないことは明らかになりました。
もう一度言いますが、「農業の自然循環機能の維持増進を図る」ことが、必要だと認識されてきました。
実は、農水省のガイドラインで大事なことがあります。それは、農産物を食べる消費者の健康について何も言ってないことです。
この点、消費者が一番勘違いしているところだと思います。
消費者としての自分ファーストではなくて、環境ファーストなんです。これは、つまりこういうことです。
お財布に優しいという言葉に代表される、とりあえず安い方が良いという一般的な消費行動があります。当たり前ですね。自分のお金ですから。しかし、高い安いに目を奪われると、長い目で見ると損をするかもしれません。
消費者も農業と環境という問題をよく理解して、環境ファーストという理念の下で作られた生産物を積極的優先的に購入するとどうなるでしょう。
これも前回お話したことです。
土壌が良くなります、自然環境も良くなります、生物多様性が改善します、生産者の経営状態・健康状態も良くなる方向です。すると、来年も再来年も、そして、自分の子々孫々が、同様に美味しい安全な食物を安心して買うことができる。
こういう循環です。
自分の消費行動、それがまわりまわって結果として、消費者というより、生活者としての自分にも未来志向の総合的なメリットが回ってくる、このような循環が期待できます。
自分ファーストから環境ファースト、少しの気づきで大きな違いを生む、そういう可能性がある理念なんですね。
次回は、具体的な特別栽培米の内容や表記についてご説明します。もっと、身近な話になると思います。