先回、無洗米の三つのPRポイントを説明しました。今日は、無洗米のPRの一つ、環境改善を検証したいと思います。
あらためて、二つの文章を紹介します。
全国無洗米協会のホームページには、以下のように書かれています。
「生活雑排水のお米のとぎ汁には、リンやチッソなどの栄養素が多く含まれていて、下水処理技術の高い下水処理場でも、チッソ53%、リン34%が処理しきれず素通りしてしまいます。チッソやリンは、赤潮、アオコなどの発生原因にもなってしまうのです。 また、下水処理するにも、汚泥の発生や大量の二酸化炭素を発生するのです。本物の無洗米はそれらをゼロに出来るのです。」
もう一つは、産経新聞グループの経済情報サイトに紹介されていた記事です。
「東洋ライス社長の雑賀慶二さんが、無洗米の開発を決意したのは、雑賀さんが夫人と淡路島に旅行に行ったとき、「船で紀淡海峡を渡る際、黄土色の海を見て、水質汚染のひどさに衝撃を受けた」からだった。
「これは人ごとではない。汚染の原因にはコメのとぎ汁もあるに違いない。実際にとぎ汁には、リンや窒素が多く含まれ、ヘドロの原因であることもわかっていた。だからこそ、とぎ汁が出ないコメ、つまり無洗米を開発しなければいけないという使命感が生まれた」と雑賀さんは振り返る。」
さて、今の話を聞くと、信じてしまいそうですよね。まさか、嘘を言っているとは思いませんよね。
これは、最近よく言われるフェークニュースの類と言ってもいいでしょう。
一つ一つの文章を見ると、どれも正しそうです。微妙に間違っていたりするんですが、それも、後から言い訳できるようなもの。でも、トータルに見ると、間違っている。三段論法を使ったトリックと言いましょうか。
細かい反論をする前に、歴史的な大きな話をします。
今、日本人の一人当たりお米消費量は60kgを切っています。消費量全体でも、900万トンを切っています。
一方、1963年・昭和38年には、一人当りは、110キロ以上、日本全体では、1300万トンも消費していました。全体で見れば、1.5倍くらいですね。
そして、お米の精米がこの間に進歩しています。昔の白米には、もっとヌカがついていました。また、精米自体も今ほど強く仕上げることが難しく、ちょっと黄ばんだような白米でした。
このお米をご家庭で、しっかり研いでもらい、綺麗な銀シャリとなったわけです。
今の話をまとめますと、より多くのヌカがついたお米を、今の1.5倍も多く研いでいました、
つまり、今よりはるかに多いヌカを含んだ研ぎ汁を台所から排出していました。
そして、それを処理するのは下水です。下水普及率は今よりはるかに低く、台所排水が、そのまま河川に流れ込んでいたことも多かったでしょう。
その時、水質の問題はあったのでしょうか?工業化による公害的な問題は既に発生していましたが、最初に紹介した赤潮などの問題が拡大していくのは、1970年代に入って発生件数が拡大していったのです。さきほど、今の1・5倍食べていたと説明したのは、1963年です。
まとめますね。
精米の甘い、ヌカのついたお米をしっかり研いで食べて、多くのヌカを含んだ研ぎ汁を河川に流していた時代に赤潮の被害は少なく、精米レベルが良くなって研ぎ汁のヌカが少なくなったお米を、より少なく食べるようになってから、赤潮などの問題が発生してきたんです。これで、研ぎ汁が犯人扱いされるって、なにかおかしいですよね。
本当は、これで十分だと思うのですが、最初に紹介したPRの文章を、細かく検証反論していきます。
ただし、今日とても全部説明できそうにありません。
なので、まずは下水処理についてざっと説明します。下水がどのように処理されているのか?どのような問題があり、どのように進化しているのか、ということです。
これがわかっていないと、無洗米の環境貢献というPRのどこが間違っているかがわからないからです。
今、日本の下水道普及率は、今年の三月末で、79・3%。下水処理って薬で浄化するのでしょうか?違います。活性汚泥という処理方法です。
これは、微生物に酸素を送り込み、汚れを食べさせて水を浄化する方法です。微生物は汚泥となり、底に沈殿します。処理された上澄みが放流されます。汚泥は、また活性化されて再利用されます。汚泥の余剰分は、焼却などで処理されます。
この処理で大事なことは、流入する水量と汚れの中身です。自然由来のものは、処理しやすく、工業製品、例えば、酒・油・薬などは、処理しずらい。処理がうまくいかないと、上澄みの水質が悪いまま、放流しなければいけなくなります。
また、活性汚泥法の弱点は、窒素とリンが除去しずらいことです。かつては、除去率30%でしたが、これも改善されて、現在は、窒素は約70%、りんは約80%以上まで除去できるようになりました。
今日はここまでです。