先回は、無洗米の環境PRに反論しました。今回は、無洗米が美味しくなるという主張を取り上げます。
全国無洗米協会のPR内容はこうです。
玄米を精米するとヌカがとれ、胚乳だけの白米となります。しかし、さらに細かく見ると、ヌカと胚乳の間には糊粉層という薄い層があり、ここには微量の栄養素がつまっています。
さらにこの糊粉層は二つの層に分けられ、胚乳に近いところは、亜糊粉層と言い、この亜糊粉層が、本当に美味しさの鍵となるとも言われています。ここまでは、問題がありません。お米の美味しさは、亜糊粉層だけで決まるわけではありませんが、間違ったことを言っているとは言えません。
問題はここからです。全国無洗米協会の主張では、無洗米はこのうまみの亜糊粉層をきれいに残すことが出来るというのです。一方、普通に精米したお米を研ぐと、ヌカが取り切れずに亜糊粉層を削ってしまう、折角の美味しさを取ってしまい、ヌカ臭いご飯になる、こういうお話です。
では、この主張のどこがおかしいのか?
まず、以前、全国無洗米協会のHPに書かれていた絵があります。
胚乳、つまり白米部分の上に、亜糊粉層がギアのように等間隔に並び、その上をヌカが覆っています。精米でヌカを取りますが、普通の精米では、ギアの間にヌカが残ります。お米を洗うことで、ヌカを落としますが、ギアの間のヌカはきれいに取り切れず、逆に、ギアの角を取ってしまいます。
これに対して、無洗米は、ヌカがすっかりきれいに取りきれていて、なおかつ、ギアのように並んだ亜糊粉層が全く損傷なく残っている。
こうして、無洗米は美味しいのだと。
実は、この絵は今のHPに残っていません。あまりにも単純化しすぎていると判断したのかもしれません。
本当のお米の形状ではこうなってはおりませ。そんなに単純ではないんです。
以下は、新潟日報という新聞に掲載されたある研究内容です。ちょっと長いのですが、非常に大事な内容なので全文紹介します。
「新潟県の県央研究所が、おいしいご飯はうまみ成分が多く含まれている糠の層が、コメ中心部の胚乳部に霜降り牛肉のように深く入り込んでいることが、大きな要素であることを突き止めた。研究によると、糠層の状態は産地や気候によって違うことがわかった。
山間部の良質米といわれるコメほど、糠層が根を生やしたように胚乳部に食い込んでいる。また、糠層をつくっている袋も丈夫なことも電子顕微鏡で証明された。
うまみの元であるアミノ酸が多く含まれている糠層が、精米後もコメの中にとどまるこの構造がうまさの秘密としており、このことからコメによって最適な精米歩合があると主張している。」
わかりましたでしょうか?
「うまみ成分が多く含まれている糠の層」とは、つまり亜糊粉層です。それが、ギアのように胚乳の上にならんでいるのではなくて、むしろ、その表面に食い込むような形態になっているのです。
そして、それをどれだけ上手に精米で残すかは、そのお米の美味しさを決める要素にはなります。「最適な精米歩合がある」というのは、つまり、そういうことです。
しかしながら、亜糊粉層の厚みがお米によって違うというのは、お米ごとの美味しさを決める要因でしかありません。
元々亜糊粉層が薄いお米を上手に精米して無洗米にしたところで、亜糊粉層が厚い美味しいお米よりさらに美味しくなることは、まず考えられません。よほどひどい精米をして台無しにしてしまわない限り。
実は、このことは、全国無洗米協会でもわかっているはずなのです。
以下の文章は、全国無洗米協会の元会長であり現顧問が、ある本に書いたことです。読みあげます。
「糠層は数種類の層より成っており、最下層は亜糊粉層である。コメの場合は、糠の最下層部が胚乳の上層部に細かな根が生えたように複雑に入りこみ、線引きできないほどに分厚い境界線を形成しているのである。要するに糠層の下層から胚乳に至る間は、明快な境界がないものととらえるべきものなのである。」
わかりましたでしょうか?全国無洗米協会のトップが、さきほど紹介した新潟の研究所と同じことを、公式に認めているんです。
亜糊粉層がどのような形状をしているか、本当のことをわかっていながら、事実とは違うが、わかりやすく単純化した絵を使って、消費者を誘導していることがわかります。
まとめますと、亜糊粉層という要素は、美味しさの要素の一つでしかなく、しかも、それはお米ごとの違いを説明するものなのです。
今日はここまでです。