これまで無洗米のPRに反論してきました。前回前々回で、環境に良いという主張と美味しくなるという主張を取り上げました。今回が最終回です。
なお、前にも言いましたが、無洗米を利用すること自体を批判しているわけではありません。使っている方の多くは、特に何もこだわりがあって使っているわけではないと思います。とりあえず、便利だからという理由ではないでしょうか?それは、それで理解できます。ただ、今の普通精米のお米でも、昔のように研がずに、洗っていただければ十分ですよ、とは伝えたいですが。
批判したいのは、水質環境の問題や、お米の構造などを、専門的な知識を持っていない一般の人向けに誤解させる表現で説明して、本当ではないけれど、本当に聞こえる、そういうPRをするところです。
さて、今回の無洗米に関する最後のネタ、ヌカの有効利用です。
全国無洗米協会のPR内容はこうです。
「BG無洗米を製造する際に回収されるヌカ(水に流すとヘドロになる)は、「米の精」という商品となり、有機質資材として有効に利用されています。」
まず、ヌカがヘドロになるというのは、また問題がある表現です。ヘドロと聞くと何をイメージされますか?
海や湖の底に堆積していて、どろどろして臭くて、水質を悪化させる要因ですよね。
これも、以前説明したことですが、現在の下水道は、微生物を使った活性汚泥処理で、汚れを浄化する微生物が死ぬと底にたまります。たまらないと処理がきちんとできていないということなんです。
そして、ヌカはとても処理しやすく、この汚泥がよく出来る手助けをする物質です。つまり、良い下水処理が出来るんです。
たまった汚泥は、再処理してまた使える微生物層を作ったり、それでも余るものは、処分します。海底や川や湖のヘドロにはなりません。
それなのに、全体をきちんと解説せず、都合の良い言葉の切り取りで、いかにも悪いことのように見せる。常とう手段とも言えますが。詳しいことを知らない消費者に誤った情報を伝えて、自分たちが関わる商品を売ろうとする、ちょっと悲しいですね。
さて、では、精米で出るヌカは、実際にどのように処理されているでしょうか?
玄米を精米すると、約一割のヌカが発生します。このヌカの大部分は、食用油、通称、米油とか米ヌカ油の原料になります。
他の用途もありますが、米油がもっとも大きな需要先です。精米所や米屋には、回収業者が回ってきて、ヌカを米油の工場に運んでいきます。
精油した後のヌカは、飼料、つまりエサになります。
リサイクルが出来上がっている品物です。
ですから、無洗米のヌカもこのリサイクルに乗せればいいのです。なのに、全国無洗米協会が推奨するBG無洗米工場から出るヌカは、回収されない。
以前、ヌカ業者さんに聞いたところ、製油工場が引き取ってくれない、要するにうまく油が抜けないのだそうです。
つまり、本来なら、すでに長年かけて廃棄物を出すことなく出来上がっているリサイクルの輪に乗せられないので、仕方なく、利用法を考えるしかない。
そして、ヌカという有機物で、そのまま肥料として使えるから、農業生産に有効活用という謳い文句で、わざわざ「米の精」というネーミングまでして販売しているのです。新しいリサイクルを作らないと、産業廃棄物になってしまいますから。
今、「そのまま肥料として使える」と言いましたが、これはそう簡単ではないようです。
二つあります。
一つは、加工していることです。わざわざ加熱してなんらかの加工をして、やっと製品になっています。本来のヌカなら、そのまま工場に持っていき、油になっていたのに対してです。
これも、「ヌカは油を含んでいて日持ちしない欠点があった」が、米の精はそうではない、と言い換えています。
さらに、もう一つは、そのままでは田畑にはまけないのです。
実際には、「米の精」を主原料として、それにナタネ・大豆カスなどを混ぜて、やっと有機質肥料になります。
これまでも、「米の精」がなくても、有機肥料は、販売もされていますし、生産者が自作もしています。別に、「米の精」があるから、有機質の生産体系が進展するわけでもない。
このあたりも、実に巧みなネーミングと説明がなされています。
自分自身、物を売ることを生業としていますので、とても参考になる事例です。上手だな、すごいな、マスコミや生協をまきこんで、とても考えられたPR活動だとは思います。
ただ、真似もできませんし、したくもありませんが。
無洗米シリーズは、これで終了です。