これからしばらく、糖質制限に関する話をします。勿論、米屋ですからアンチ糖質制限です。間違えました、米屋という立場をはずしても、アンチです。
ここ数年、糖質制限がはやっています。糖質オフや糖質カットの食品がスーパーやコンビニの棚スペースを占め、糖質制限を勧める本やレシピ本が本屋さんのコーナーを作っています。テレビでもすっかり定番化したネタになりました。
この糖質制限、目的は何でしょうか?大きく分けて、ダイエットと糖尿病対策治療ですね。
こういう話です。
糖質を摂取すると、体内でブドウ糖になり、血液で全身に運ばれて、あらゆる体内機能のエネルギー源になります。血糖値は上昇し、インスリンが出て、血中濃度を一定にするために肝臓にグリコーゲンとして蓄えます。筋肉の働きも重要なのですが割愛します。
ここで、問題が二つあります。
一つは、必要以上に摂取された糖質が最終的には中性脂肪になる、という指摘です。実は、人間の体では、そう簡単に脂肪にはならないのですが、理論的にはそういうサイクルになっています。
糖質が脂肪になり、体重が増加します。つまり、糖質を制限すれば、脂肪が減り、体重が減る。ダイエット成功、というわけです。
もう一つは、糖尿病です。肥満や運動不足などが原因でインスリンが効きにくくなり、ブドウ糖が細胞に十分取り込まれなくなった状態をインスリン抵抗性といいます。インスリン抵抗性があると、筋肉や肝臓、脂肪細胞でブドウ糖を吸収されにくくなり、血糖値が上がりやすくなります。すると血糖値を下げようと、すい臓はインスリンをさらに分泌しようとしますが、やがて疲弊してインスリン分泌機能が弱くなってしまいます。
こうなると、常に血糖値が高くなり、Ⅱ型糖尿病の発生につながります。
血糖値を高くするのも、インスリン抵抗性の原因である肥満を作るのも、糖質の過剰な摂取ですから、糖質制限をすれば、糖尿病の予防にもなり、また、治療にも役立ちます、こういう理屈です。
今まで説明してきたことは、実は、かなり問題があります。状況をわかりやすくするための単純化だったり、もっと重要で複雑な要因を無視していたり、さらには、研究でとっくに否定されていたりします。
無洗米のときと同様の話です。
これから、より詳しく具体的な説明をしますが、まずは、歴史的なおおまかな話をします。
日本人がどれだけ、お米を食べてきたかという話です。
以前、お話したことですが、田んぼのサイズを覚えていますか?町反畝(読みは、ちょう・たん・せ)。その中の、反。反物の反ですね。ここで収穫できるお米の量を反収と言います。お米収量の基本となる単位です。
今は、約500キログラム取れますが、古代から江戸時代にかけては、約180キログラムです。お米180キログラムは、精米すると約160キログラム。一石(いっこく)が、150キログラムですから、一反の田んぼは、すなわち、一石とも言えます。加賀百万石の石ですね。
そして、一石とは実は、一年に人一人を養える量です。白米で150キロ。それくらい、食べていたことになります。年貢で五割前後取られてしまうので、実際は、麦やら雑穀を混ぜて食べていましたので、穀類全体での量と考えるべきかもしれませんが。
宗教上の理由から肉はほとんど食べておらず、本当に穀類と豆と野菜、そしてたんぱく源として魚介類などを食べていたのでしょう。
次に、近現代の話です。
昭和16年、先の大戦開始前に、米が統制品となります。それまで、サラリーマン世帯平均で、一人一日三合食べていました。統制で、それが、2.3合に減らされました。
一日三合は、年にして160キロ。2.3合は、125キロ。
さて、戦後の食糧難を経た、昭和30年代半ば、米の自給をやっと達成したころが、戦後の米消費のピークです。それが、113キロ。
で、今は、年間一人当たり60キロを割っています。
160キロが60キロ未満への減少です。
戦後、アメリカGHQの政策もあり、パン食の普及が進みます。今は、家計に占める割合で言うと、お米代より、パン代のほうが大きくなってしまいました。さらには、パスタなども一般化しました。
そうやって見ると、お米消費が減っても、炭水化物全体で見れば、「過剰摂取」と言われても仕方ないのかな?と思われるかもしれませんが、実際は、炭水化物全体の摂取は、戦後75年で減っています。増えたのは、圧倒的に脂肪です。タンパク質は若干増えています。
つまり、糖質の中で最も大きな要因、炭水化物の摂取が減ってから、肥満や糖尿病が増えているのです。おかしな話ですよね。