先回は、糖質制限に関するお話のさわりの部分。これから、細かい話をしていきます。生化学的な分析の話もあり、ラジオで話しても大変難しいので、どのように説明すればご理解いただけるのか、今からかなり心配しています。
と言いながら、今回も、先回お話しした、どれだけ日本人がお米もしくは穀類を食べていたかという話の続きをします。
一石150kgが一年間で一人を支える量だと説明しました。実際の消費量としては、戦前で160キロ、戦後のピークで115キロ。でも、さらに、それを上回るお話もあるのです。
幕末、吉田松陰が江戸詰めのときに、支給されていたのは、白米四合一勺。4.1合。
我が町、旧新宿町(しんしゅくちょう)の名主、比留間家に残っていた古文書には、江戸後期、飢饉災害に備える備蓄量が記載されています。一日当たり穀類の量は男性は四合、女性は二合。
宮沢賢治は、「雨ニモ負ケズ」の中で、「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ」と書いています。
さらに、先の大戦のとき、陸軍の食事は、白米四合、麦が二合。
どれも、四合という数字が出てきます。四合のお米穀類は、一年で220kgにもなります。今は、それが、60キロを割っています。とんでもない違いですね。
他に食べる物がなかったという当時の食糧事情はあります。が、それにしても、多いですね。一体、一日に四合食べると、どれくらいのカロリーになるのでしょうか?
答えは、2100キロカロリーです。
一方、今の摂取量はどうなっているのでしょう。今は飽食の時代と言われています。カロリー摂取、随分、増えたのでしょうね。なにしろ、毎日ダイエット情報や番組があふれています。どれだけ多いのでしょうか?
それが、びっくりすることに少ないのです。今の日本人の平均摂取カロリーは、1900キロカロリーを割っています。戦後の食糧難のときより、実は少ないんです。
お米だけで、2100キロカロリー食べていた時代、他にも多少の物を食べていますので、それ以上のカロリー摂取になります。
今より、よほど食べて、その大部分がお米を中心とする穀類。炭水化物つまり糖質だらけです。
では、当時、肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病はどうだったのでしょう。言わなくてもわかりますよね、今よりはるかに少なかった。摂取カロリーが多くて、糖質ばかり食べていた時代に、肥満も生活習慣病も少なかったのです。
一方、現代は、まず摂取カロリーが少ない。その中身を見ると、三大栄養素と言われる、炭水化物(つまり糖質ですね)・タンパク質・脂肪のなかで、糖質摂取だけが減っています。そして、生活習慣病が増えた。一千万人が、さらに糖尿病予備軍と言われています。
そのような状況で、「糖質の取りすぎ」と主張される方がいます。さきほどの数字を見れば、どのように考えたら、「取りすぎ」などと言えるのでしょうか?
こういうと、必ず「それは、寿命が延びたからだ。昔は、生活習慣病になる前に死んだから」と反論する人がいます。
なるほどと思ってしまいませんか?なんとなく、納得しそうです。日本人は、世界の中でも平均寿命が長く、毎年のように数字が伸びています。昔昔は、人生50年ともいわれていましたので、病気になる前に死んだから、という主張もその通りに聞こえます。
でも、実は、これもおかしい主張なのです。平均寿命の意味を知っていればわかります。
平均寿命とは「ある年に亡くなった人の平均年齢」ではありません。「0歳児の平均余命」という意味です。昔の平均寿命が短かった最も大きな要因は、乳幼児が若くして死んでいたからです。
昔も、長寿の人はたくさんいたのです。有名な人の名前を挙げればきりがありません。
卑近な例で恐縮ですが、自分の先祖を調べたときにも、子供の時や感染症流行の時期になくなるケースが多く、戦死や戦病死を除けば、成人した人の多くが、かなり長生きしていたことを知ってびっくりしました。私の祖父は73歳まで生きましたが、彼が短いほうでした。
それでいて、生活習慣病にかかる人が少ない。つまり、生活習慣病が増えたのは、平均寿命の問題ではなく、他に原因があります。
だいたい、生活習慣病は、元々「成人病」と言われていました。年長の太った会社役員で、あくせく働かなくよくて、毎晩会食しているような男性がかかる病気、そんなイメージでした。
それが、若い女性でも、さらには、子供までもがかかるようになってしまいました。生活習慣の問題が大きな要因だと考えられ、用語まで生活習慣病に変わったのです。
そして、それが、糖質の摂取が減ってからのことなのです。
まとめますね。
かつて、今から考えられないくらいの米や穀類、つまりは、糖質を摂取していた時代に、肥満は少なく、生活習慣病も少なかった。今は、飽食の時代、にもかかわらず、糖質の摂取は減り、ダイエットが必要で、生活習慣病が増えてしまった。これが、実態なのです。
次回から、ダイエットの問題を取り上げます。