これまで、八回にわたり、糖質制限についてお話してきました。そろそろ、まとめたいと思います。
あらためて糖質制限派の主張を紹介します。
- 第一に、過剰な糖質は脂肪になり、肥満の原因である。
- 次に、糖質摂取に伴う血糖値の上昇が問題である。糖質をコントロールするインスリンが効かなくなり、ついに糖尿病となる。糖尿病は、各種合併症につながる。
- そして、人類の歴史を見れば、人類は本来、肉食であり、糖質を大量に摂取するようになったのは、農耕を始めてからのここ一万年。昔の人類の食事を続けているイヌイットたちは、糖質ではなくて、大量の脂肪を摂取しながら、健康である。
- 脳細胞は、糖質から作られるブドウ糖しかエネルギー源にしないから問題だという批判があるが、イヌイットのように、脂肪から作られるケトン体を糖質の代わりのエネルギー源にすればよく、さらに、現在の糖質摂取に伴う健康の問題は解決する。
こういうものでした。
これに対して、こう反論しました。
まず、過剰な糖質が脂肪になるのは本当です。ただし、日本人の場合、糖質の元となる炭水化物の摂取量は減り続けています。減っているのに過剰とはこれいかに?という話です。
そして、実際に糖質が脂肪になるには、とんでもない量の糖質を摂取しないとならないのです。
余分な脂肪を作ったのは、脂肪の過剰摂取です。戦後、日本人の脂肪摂取は増え続けました。炭水化物がとても減り、タンパク質は若干増え、脂肪が大幅に増えました。
日本人が現在摂取している栄養素を考えれば、糖質が肥満の原因とは到底考えられないのです。
勿論、肥満は消費しきれないエネルギーを食べていることが直接の原因で、仕事の内容や運動なども含めた生活全般の問題でもありますから、一概に言えないのですが、少なくとも、糖質摂取が肥満の第一原因だとはとても言えません。
なお、ダイエットを考えると糖質制限は、短期的には有効な方法です。ただし、それは、あくまで短期的な体重減少という意味で、長い目で見れば、筋肉量の減少を伴う、不健康な形でのリバウンドというリスクをかかえています。さらに、人命に関わるような血管系の病気の恐れもありますし、その実例も散見されています。
次に、血糖値の問題、糖尿病の問題です。
確かに、食後の高血糖や、急激な血糖値上昇は問題です。しかし、単なる血糖値コントロールでは問題が解決しません。薬や糖質制限によって、血糖値をコントロールしても、本質は解決しないのです。
日本人は今より大量の炭水化物を摂取していました。その時、糖尿病は少なかったのです。どうしてでしょうか?
寿命が延びたから糖尿病が増えたという説明も聞きますが、寿命の問題ではないことも説明しました。
日々しっかり炭水化物を摂取していると、血糖値をコントロールするための糖質代謝が良くなるのです。耐糖能と言います。糖に耐える能力という意味です。これが、異常になった状態が続くと、糖尿病になります。
血糖値は目に見える症状ですが、本当の問題は、糖質をうまくエネルギー源として使うことができない、耐糖能の異常です。そして、この耐糖能異常のきっかけが、大量の脂肪の摂取です。
肥満も糖尿病も、結局、栄養素全体の問題で、その中心は、脂肪なんです。昔のコマーシャルで見た、「もとを絶たなきゃダメ」という話です。
昔の人類とかイヌイットの食事などという話については、歴史的にも科学的にもおかしいことを説明しました。人類は、ずっと雑食で、とにかく生存のために、手に入るものを食べて、それぞれの民族が遺伝子の変化という形で適応していきました。特殊な例をあげて一般化することに意味はありません。
さらに、ブドウ糖の代わりにケトン体という主張については、グリア細胞のことをお話しました。長期記憶をはじめ、重要な役割を持ち、脳細胞の大部分を占めるグリア細胞がケトン体を使えないことを説明しました。
最後に感想を言いますと、無洗米の件にも通じることですが、詳細な背景を知らない人に、一面的な情報を与えて、まどわせ、また、過度な期待を抱かせ、自分の商売、例えば、ダイエットとか医療とか書籍販売に利用する、そんなことになっているのでは、と考えてしまいます。
糖質制限が有効な場面、病気の状況とか、その期間とか、また、そのリスクも合わせて説明したうえで、限定的に活用するのなら、理解できます。
しかし、実際に見るのは以下のようなことで、とても残念です。
まず、「人類はそもそも」などと、既に破綻している理屈から初めていること。
次に、自分の説の正当性を主張するために、海外における医学的研究論文を間違った形で紹介していること。
さらに、過去の書籍やブログなどの訂正もしないまま、情報が独り歩きをしていることを放置していること。
皆さん、お米について知りたい聞きたいことがあれば、何でも結構です。是非、ラジオフチューズまでメールをお寄せください。