昨年の四月から始めたこの番組も最後の放送となりました。
どれだけ続けられるか、全く未知数の状態でしたが、お米に関する情報を提供しているうちに、あっという間に一年半以上経過していました。
これまでの内容は、すべて当店のブログに掲載しています。放送では時間の関係でカットした部分も加えて、さらに加筆修正した内容をアップしております。是非、ご覧になっていただければと思います。
今日は、日本の歴史や自然環境、そして私たちの生活が、お米とどう関係してきたかというお話をして、この番組の締めとしたいと思います。
まず、お米は日本の歴史です。歴史そのものです。とりあえず、明治になるまで。
日本の歴史は、天皇家や貴族、そして武士たちが起こした様々な事件の話が中心に見えますが、その背後には常にお米があります。
お米は貨幣価値という意味もありましたが、それ以上に、日本の自然環境とも密接な関係があります。
お米作りを拡大するために、山を管理し、森林を整え、河川を整備し、農業用水を張り巡らしました。
昔々は、山の谷あいで始まった米作りも、今説明したような土地開発により、平野部で田んぼが作れるようになり、生活の場所も山から平野部に広がっていきました。今は、平野に人口が密集していますが、それも、米作りの結果とも言えます。
さらに、米作りに伴う副次的効果もあります。整えられた森林が雨を含むおかげで、台風などの時に、降った豪雨がそのまま河川に流れ込むことなく、河川を守ります。河川を守るということは、下流域の人たちの命を守るということです。
近年、気候変動のために、台風や大雨で、大変な被害が続いています。
勿論、降雨量が大きいことが原因ではありますが、森林管理の問題もあるように感じます。昔は、林業としてお金になる杉檜だけでなく、落葉広葉樹も含めた森林管理が一般的でした。落葉を集めてたい肥にしたからです。
杉檜に特化した森林は、管理が悪いと大雨に弱くなります。最近の水害による被害の大きさの一つの原因ではないか、米作りを基礎とする森林管理がされなくなったことが、一因ではないか、そんな感想を持っています。
そして、山の森林を守ることは、飲料を確保することでもあります。日照りのときにも、山からは水がしたたり落ちます。雨が降らないときにも川が流れています。飲み水があるのが当たり前、蛇口をひねれば水が出ると思っていますが、それは、先祖の営々とした米作りにかける情熱のおかげです。
さらに言えば、近海の水産資源も関係します。具体的には、山から流れ出る水の水質が影響します。フルボ酸鉄という成分が重要です。そして、このフルボ酸鉄は、落葉広葉樹が多い山からしみ出ます。
山の幸、陸の幸、海の幸、極論すれば、全てが米作りの産物だったんです。
米を作るために、森林を守る。それは、あくまで農家の自発的な利己的な活動です。しかし、その利己的な行動が、回りまわって、他の人の生活に貢献します。知らないうちに、利他的な循環になります。
最近の経済的行為の特徴は、誰もが利己的な経済活動を行い、それが、誰かの損になったり、公害になって自然環境を破壊したり、最後は回りまわって、自分にも害を及ぼしたりします。昨今、そういう状況を、「今だけ、自分だけ、良ければ」という言い方がされますね。
一方、米作りは、「水と緑と土」、つまり、山・河川・農地という循環の中心です。
「水と緑と土」は、1974年、今から40年前以上に富山和子さんという学者研究者が提唱した言葉であり、概念です。
こういうことです。自分のための米作りです。そのために様々なことをします。自然を維持管理し、自然を従えるのではなく、あくまで自然の摂理に沿って継続的に利用します。それが、結果的に人間が折り合いをつけた形で自然を守り、山から海までの生産物を得て食を支え、さらには周囲や遠隔地の他人にも良い効果をもたらします。
今はやりの、SDG’S 持続可能な開発行為、そのものだとも言えます。
そんな米作りがピンチです。米消費は、三分の一になり、耕作放棄地が多くなり、生産者の跡取りも心配です。
アメリカのように大規模化すればよい、という一見もっともらしい意見を言う評論家もいますが、現場を知らない絵空事です。
日本の耕地は、北海道以外では、どんなところでも、棚田です。一見広く見えるところでも、常に高低差があります。ただ大きくするだけでも大変です。さらに、一年一作のお米の場合、田んぼを増やしたら、その分、機械も人も必要です。大規模化にも限度があります。
この番組では、健康に関するお話もしました。是非、お米のすごさをもっと知って、食事を楽しみ、健康になって、日本の農地と農業を守り、孫子の代まで安心して生活できる環境を残していただきたい、そんな思いで、この番組を終わりたいと思います。
お米について知りたい聞きたいことがあれば、是非、私に尋ねてください。メールでも結構です。当店のサイトをご覧ください。天地米店で検索すれば、すぐにわかります。