『米すたいる』お米マイスター情報誌
Vol.10/2014年3月号より
「糖質制限食」の理論は、かなり細かい研究が進み、また、臨床研究も進んでいるようです。
中には、なるほどと思わせる内容もあるのですが、常に、
「ちょっとそれは事実誤認では?」と思う部分が、あります。
食に関する歴史的俯瞰です。
今回の「米すたいる」に、幕内先生が書かれた以下内容は、まさにその点を突いています。
間違いだらけの「糖質制限食」ダイエット
狩猟採集時代は短命だった
最近、「糖質制限食」ダイエットを提唱する本がたくさんでています。
それらの本を読むと、おおよそ、次のように書かれています。
「人類の歴史は三百万年、あるいは四百万年とも言われている。その中で、農耕が始まり米や小麦などの穀類やイモ類の栽培が始まったのは、約一万年前に過ぎない。
そのため、私たちの体は長い狩猟採集時代の食生活に適応しているのであって、穀類やイモ類を食べることには適していない。穀類やイモ頬を食べるようになって、肥満や糖尿病などが増えてきたのである」。
本来、人間は肉食動物だという主張さえ登場するようになっています。
驚くべき話です。しかし、縄文時代の人たちはどのくらいまで生きたのでしょうか。
人類学者の研究によると、平均寿命は10代前半だった言われています。えっ?10代前半では子孫も作れず、人類は滅びてしまったのではないか?と疑問に思う方もいるかもしれませんね。
当時は、乳幼児の死亡率が極めて高かったために、平均寿命にするとこんなに短くなります。それでは、乳幼児期を無事に成長した人たちはどうだったのでしょうか?15歳以上の出土した骨を調査した研究によると、おおよそ31歳くらいだったと発表されています。今とは比較できないくらい短命だったことがわかつています。
30歳程度しか生きなかったのであれば、肥満や糖尿病などほとんどいなかつたのは当然のことです。
今だって、30歳と60歳、70歳の人を比較したら、30歳の人の方が病気は少ないに決まっています。
したがって、むしろ、穀類やイモ類をほとんど食べられなかった、狩猟採集時代は極めて短命だったと考えるのが普通なのではないでしょうか。
穀類、イモ類を栽培するようになつて寿命は伸びた
私たちの祖先が米と出会ったのは二千年前、最近は三千年前、五千年前という説も出てきているようです。その時から、米で空腹を満たすことに叡智を傾けてきました。食生活でもっとも大切なことは、年間を通して安定的に食料が入手できることです。米は保存が可能だったために、米の栽培が始まって食料が安定的に入手できるようになりま
した。そのことによつて、人口が増えただけではなく、飢餓や栄養失調、栄養失調からくる感染症などが減ってきました。当然、寿命も延び、今や世界一の長寿国と呼ばれるようになっています。
まちがっても米やイモ類を食べるようになつて肥満や糖尿病が増えたのではありません。寿命が延びて肥満や糖尿病が増えたのです。安易なダイエットブームに飛びついてはいけません。冷静に考えたいものです。
著:幕内秀夫(まくうちひでお)1953年茨城県生まれ。東京農業大学栄養学科卒業。現在、フーズ&ヘルス研究所代表。主な著書、『粗食のすすめ』(新潮社)、『じようぶな子どもを作る基本食』(講談社)、近刊『粗食の基本』(ブックマン社)など多数。